【川崎大輔の海外コラム】マレーシアの輸入許可証撤廃が与える中古車流通への影響

【川崎大輔の海外コラム】マレーシアの輸入許可証撤廃が与える中古車流通への影響

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【川崎大輔の海外コラム】マレーシアの輸入許可証撤廃が与える中古車流通への影響

2014年発表のマレーシア国家自動車政策

マレーシアは、古い伝統を残しつつ、その制約の中で最先端の考え方・技術を取り入れながら成長してきた。ブミプトラ政策は、マレー系および先住民を優遇する経済政策で、新しさと伝統の融合を模索してきた政策といえる。その政策のひとつとして、ブミプトラの国産自動車産業育成・保護政策がとられている。マハティール元首相が顧問を務める国産車プロトン社はその代表だ。

一方、アセアン経済共同体の発足など、マレーシアを取り巻く環境は急激に変化している。このような変化に対応するため、保護から競争力強化へと政策を変化させようとする動きが出てきた。中古車を含む完成車は、AP(Approved Permit:輸入許可証)なしでは輸入が行えず、国内自動車産業が保護されてきた。現在APの申請はブミプトラだけに限られている。

2014年のマレーシア新国家自動車政策で、APを撤廃する方針が改めて発表された。特定メーカー車両の輸入に必要な「フランチャイズAP」を2020年末、中古車輸入に関係があるメーカーや輸入元を限定しない「オープンAP」を2015年末で撤廃するという内容だ。APの撤廃が、マレーシアの中古車市場にどの程度の影響を及ぼすのか。マレーシアにおける中古車流通の現状を把握して検討する。

マレーシアの中古車流通

マレーシアには中古車関連の業界組織がなく、中古車市場規模の統計データがないため正確な数字は分かっていない。マレーシア国産メーカーでのヒアリングによれば、中古車の年間登録台数は新車販売台数(約66万台)の約80%(=53万台弱)と見積もられている。登録(名義変更)は、エンドユーザーに届くまでに平均1.5~2回行われており、実際の中古車小売台数は、およそ27~35万台と推測される。

マレーシアでは、中古車は新車ディーラー、中古車販売店、オークションの3つの流通経路で取引が行われている。

新車ディーラーはまだ販売規模が小さく、積極的な中古車の小売を行っていない。新車の下取として手に入れた中古車を中古車販売店へ卸売している状況だ。現地のディーラーへのヒアリング結果では、「小売:卸売=1:9」であった。

一方で自動車メーカーとしてトヨタが2000年に「Top Mark」という認定中古車のブランドを立ち上げ、2012年にはプロデゥアが2番目のメーカー認定中古車制度を立ち上げた。まだ数は少数だが、メーカー認定の中古車が市場に流れ始めたようだ。

中古車販売店はマレーシア中古車流通市場のメインプレーヤーであり、5,000ヶ所ほどあると言われている。エンドユーザーへの小売がメインとなるが、ほかの中古車販売店に対しての卸売も行っている。仕入の多くは新車ディーラーからだが、一般ユーザーやオークションからの仕入、中古車販売店同士での交換もある。中古車販売店の集客では、ネットサイトと自動車雑誌が多く利用されている。一般的にエンドユーザーはネット、雑誌などで興味がある中古車を確認したあと、中古車販売店で現車を確認し購入するというステップを踏んでいる。

オークションはおよそ20~30ヶ所で、それぞれ毎月300~400台の取引が行われている。流通の多くは銀行などの金融差し押さえの中古車。エンドユーザー同士での個人間取引も、ネットサイトやこのようなオークションを通じて行われているようだ。

輸入中古車市場のターゲットは高所得層

マレーシアでの輸入中古車の市場規模は、全中古車流通市場の10%以下だ。マレーシア国内へは年式2~5年の中古車輸入が認められている。日本からの車の多くはハイエンド層向けの車だ。一般的にはマレーシアでは生産されていない、もしくは入手しづらい、新車に近い車が多い。現地でのヒアリングによれば、AP(輸入許可証)を取得して輸入中古車を購入するユーザーが、最も高所得層である。入手しづらく高関税がかかる中古車を購入できる財力、ネットワークが必要だからだ。

中間所得層は、日本メーカーの新車、マレーシアメーカーの新車を購入し、これら新車に手が届かない低所得層が、輸入によるものではない国内で流通する中古車を購入している。

AP撤廃による中古車流通市場への影響は限定的

APの撤廃による中古車流通市場への影響は軽微だろう。理由として、1つ目には顧客ターゲットが異なっていること、2つ目には中古車市場に対する輸入中古車市場規模が大きくないという点が挙げられる。しかし、ブミプトラへの影響は慎重に検討する必要がある。元々APは2010年末に廃止される予定だったが、2009年に終了を延長されたという経緯がある。APの撤廃によってブミプトラにどの程度の影響が出るか分からないからだ。

一方で、ブミプトラとして過度に政府に依存する時期は終わったという意見も多い。現在のマレーシア中間所得層の主力は、華人からブミプトラに変わってきているからだ。

マレーシアにとって、自動車産業を支援していくという立場は変わらないだろう。しかし自動車政策とブミプトラ政策のかかわり合いは強く、見直しは簡単ではない。これからの国家自動車政策の舵取りは、マレーシアにとって正念場となる。

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アセアンプラスコンサルティング代表 川崎 大輔

アセアンプラスコンサルティング代表 川崎 大輔 Kawasaki Daisuke

大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。現在、レスポンスコラム「川崎大輔の流通大陸」を連載。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

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