【小阪裕司コラム第3話】売る視点を見直してみよう

【小阪裕司コラム第3話】売る視点を見直してみよう

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第3話】売る視点を見直してみよう

前回、食品スーパーで、「売る」視点を変え価値を訴求したら、
売れ行きが大きく変わった話をした。 今度はそれを数店舗で
同時に取り組むとどうなるかという話をご紹介しよう。

商品は雪かき用のスコップだ。
一流メーカーのもので、機能性も高いが、スコップとしてはやや高価なもの。
この会社では雪がよく降る地域に9店舗を持ち、この商品を店頭でそれなりに
PRしてきたが、ある年の販売実績は、全店で13本だった。

そこで次の年には、ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)の「売る」視点と方法を取り入れ、拡販を試みた。
例えば幹線道路沿いのある店では、車からよく見える位置に「イライラしない雪かきあります」と大きく書いた貼り紙をした。
「イライラしない」という文言は、この商品の持つ価値の訴求だ。

通常のスコップの場合、雪の質によっては、持ち上げた雪を放り投げる時
スコップから雪が離れずイライラがつのる。
ところがこのスコップには特殊な機能があり、雪切れが格段に良いのである。

そうして貼りだしてみると、「あのイライラしない雪かきって、どんな雪かきなの?」「旦那に、イライラしない雪かき買って来てって、買いに行かせたよ!」と多くのお客さんが反応した。

他の幾つかの営業所でも同様の訴求をチラシなどで継続的に行い、前年の10倍以上、159本を売ることができた。

そしてさらに次の年。
このスコップに対し全店でチラシや店頭のPOPをワクワク系的に各自工夫。
各店店長を集めて行う会合でその成果を共有していった。

そうした結果は、9店舗で736本。
一昨年との対比では、なんと56倍が売れるようになった。
「56倍」と聞くと大変な成果のように感じるが、実はワクワク系の現場ではこのようなことは珍しくない。
それだけ多くの方々が、売れるはずのものを売り逃しているのである。

この一連の成果は「売る」視点を変え価値を訴求したことによる。
雪切れが良いことはこの商品の特長だが、そこを各店で「湿った重い雪、得意です」「ポイポイ雪が放れます」など、様々な言い回しで、チラシやPOP(店頭販促物)で訴求した。

「価値を訴求する」と言うとすでに実行されていることのように思えるが、実際には商品のスペックを語っているだけのことが多く、それでは価値は伝わり難い。

その点彼らの取り組みは良く、なかでもある店のチラシでの「笑って雪かきできました」という言い回しは秀逸で、買う側は買った後自分たちの生活がどう変わるのかがイメージしやすかっただろう。

また、数字が大きく伸びた背景には、ある店でうまくいったことを全店で共有し、広げていったことがある。

多店舗展開している場合、そこが肝要だ。 そうしてこの会社では、今や全店がこの考え方・やり方に慣れ、他の商品でもどんどん成果が出ているという。 「みんな、今はとても楽しそうにやっています」とは、全店を統括するマネジャーの談である。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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