【小阪裕司コラム第5話】次代に引き継がれていく商いとは

【小阪裕司コラム第5話】次代に引き継がれていく商いとは

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第5話】次代に引き継がれていく商いとは

ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)のある呉服店からの、歴史と絆、商いの本質を感じさせるご報告。

この呉服店は店売り100%、外商はしない方針で、月に1回のイベントを核にして売上を組み立てる商いをしている。そのイベントも、広く集客はせず、長年に渡って絆を育んできた顧客を中心にお声掛けし、来場記念品やプレゼントを使った動員は一切行わない主義で通してきた。

そんななか、毎年大きな売上を作る月が近づいて来た。
今年は何をやろうかと考えていた
ところ、ふと、先代である今は亡き父を思った。生きていれば、ちょうど今年のその月で90歳。卒寿の年だ。
この機会に、染色研究家でもあった父の功績をお客さんにも知ってもらい、普段まったく記念品やプレゼントをしない代わりに、長年お店を可愛がってくれているお客さんに何かできたらと。

古い染織品のコレクターでもあった先代のコレクションは2万点にもおよび、今でも整理が続けられている。
そのなかでかつて彼に譲られたもののひとつが夜具の生地だった。
しかし当時の彼はどうしていいものか分からず、そのまま段ボール箱に詰め、しまったままになっていた。

「そうだ、あの生地を額装して、お客さんにプレゼントしよう!」。
そう思った彼は、今回のイベントを、父のコレクションになぞらえ、自分のコレクション展としようと考えた。
彼自身も相当な着物マニア。産地や作家さんをまわったときに、お店で売る自信はないがとにかく惚れ込んで、私費で買い集めた着物も相当数ある。
父の偉業と自分のコレクションを重ね合わせ、記念のイベントとすることにしたのだった。

そうしてこの額とイベントの案内状を送る特別な顧客をリストアップ。
あくまでも長年お世話になった方へ送る記念品なので、イベント会場での引き渡しでなく、ご案内と共に先に送った。
すると、それらがお客さんの手元に届くや否やお礼とイベント参加予約の電話が次々と入り、イベントの8日間は大盛況。
売上の方も、この8日間で、なんと普段の年商の4分の1を売り上げる結果となったのだった。

長年良い商売を続けているお店や会社には、良い顧客がついていることが多い。
商いが長続きするかどうかは、目先の売上を効率よく作ることではなく、長くお付き合いできる顧客をいかに多く持ち、長く愛されるかにかかっている。
そんな豊かな土壌に、ときにこのような大輪の花が咲く。
そしてまたその土壌は次代へと引き継がれていく。


今、呉服業界は決して明るくない。
それでもこの店の土壌は引き継がれていくだろう。
それこそが“商い”というものなのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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