【小阪裕司コラム第9話】商いは”人にフォーカス”で

【小阪裕司コラム第9話】商いは”人にフォーカス”で

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第9話】商いは”人にフォーカス”で

あなたがもしお店の新規オープンを控えていて、集客を考えているとしよう。
そのとき、何に目を向け、どんな手を打つだろうか? ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のあるパン屋さんからいただいたご報告だ。

お店の新規オープンに当たって、一般的には、オープン告知広告を主体に考えるだろう。
折込チラシを入れる、店のフライヤーをポスティングするなどの方法だ。
しかし店主は今回、それらは行わない方針で、「広告費ゼロ開業」を試みた。

とはいえ店の立地は、駅からは遠く、建物の裏路地にあって人目につきにくい。
そこで店主は、店頭と店周辺の看板だけを使い、あえてWEBサイトも作らず、地元向けの広報に徹することにした。

そのため、まずは店周りの人の動きを観察した。
開店準備のため毎朝店でパンを焼いていると、朝8時頃に大勢の小学生が通りかかることがわかった。
そこはなんと、集団登校の集合場所。
地元の食を支えるパン屋にとって、小学生ママは格好のお客さん。
まずはそこに集まる小学生の口コミに乗せることを考えた。

そこで店頭に、1年生でも読めるようひらがなとカタカナで、「これから、パンやさんができるよ」と書いて掲示した。

すると、毎日集まる小学生たちが、「パン屋さんだって~」「いつできるのかな~」と話しながら、店を覗き込んできた。

さらに観察していると、店のある路地周辺の人の流れも見えてきた。
そこで路地の入り口に、「あっちに12歩 もうすぐパン屋さんができるよ!」逆側には「あっちに14歩 もうすぐパン屋さんができるよ!」と看板を設置。

オープン日が近づくと、「もうすぐ~」を「5月8日にパン屋さんがオープン!」に書き換え、オープンの日を待った。

はたしてこれでお客さんが来るのか、ドキドキしながらのオープン日。
開店の11時を前に、10時半ごろから店の前には人だかり。いつの間にかものすごい行列に。

「12歩数えてきました!」「どこにあるのかまわりをぐるぐるしちゃった」
「うちの子がいつも集団登校でここに集まってて、教えてくれたんです」と口々に、大勢の地元の方々が、看板を見て、店を認知して、オープンに合わせて来てくれたのであった。

ワクワク系では、人の心と行動に目を向け、それを軸に商いの営みや、打つべき手を考え実行することを「人にフォーカスする」と言う。
今回店主が行ったことはまさに人にフォーカス。
商いの結果は、それをベースに、あとは工夫と行動で、生み出すことができるものなのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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