【小阪裕司コラム第54話】お客さんに価値を伝え損ねると

【小阪裕司コラム第54話】お客さんに価値を伝え損ねると

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第54話】お客さんに価値を伝え損ねると

今回のコロナ情勢下で、多くの飲食店が普段行っていない弁当やテイクアウト、デリバリーなどを行ってきたことは、皆のよく知るところだ。

ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)の飲食店もご多分に漏れず。そのなかのある店舗の話だが、この店も予約・お届け制で弁当を始めた。

ところがその初日、何人かのお客さんから、クレームではないが、指摘があった。

指摘の内容は「弁当のなかの白身フライがサクサクしていない」というものだ。弁当ゆえ、作り立てから時間が経ってフライがベタっとしてしまったのだろうか?

実はそうではなく、店主いわく、このフライはそもそも「揚げたてを出し汁醤油にくぐらせて味をまとわせた、しっとり系を狙って作った」ものとのこと。
つまり、「サクサクしていない」のではなく、「サクサクするようには作っていない」のだ。

しかし、作り手がいかにそう思っていても、そこにこだわりを持っていても、お客さんには伝わっておらず、「白身フライ」という料理だけに、逆に「サクサクしていない」となる。

これは、実によくあることで、「価値が伝わっていない」という現象であり、今回はさらに価値を下げることにすらなっていた。

あなたならこんなとき、どうカバーするだろうか?

お詫びの連絡をする。
次からはサクサクした白身フライで作り直す。

いろいろなカバーの仕方があると思うが、彼はどうしたか。
2回目からはメニューの書き方を変えたのである。

具体的には、出し汁醤油を使った2品、天ぷらには「出汁醤油仕立て」と書き加え、白身フライには「出汁醤油」の一言を加えた。するとお客さんの反応は変わった。

それ以降、指摘されることは一切なくなり、さらには一度注文してくれたお客さんからのリピート注文が殺到した。そして改めて「めちゃくちゃ美味しいですね!」の声が多く届いた。

これが、ワクワク系で最も重視する活動のひとつ、「価値を伝える」というものだ。
繰り返しになるが、どんなに売り手や作り手がこだわっていても、その価値が相手に伝わらなければ今回のようなことになる。

しかしこだわりがあるからこそ、そこを変えるのではなく、価値の伝え方を見直すのだ。

今回リピートが殺到した理由も、推察するに、「出汁醤油」の一言を見たお客さんらは「あれは、そうだったのか!」となり、もう一度改めて味わいたいと思ったのだろう。

人は脳で食べる存在だから、実際味わいはまったく違うものになる。
そうして改めて「美味しいですね!」となるのである。
あなたの現場では、今回のようなことは起こっていないだろうか?

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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