【小阪裕司コラム第6話】タントにごまをつける

【小阪裕司コラム第6話】タントにごまをつける

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第6話】タントにごまをつける

ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のあるカーディーラーの店長さんからのご報告。

なかなか気づかない「売れない理由」と、それに気づく力をどう身につけるかに関わる、学びの多いご報告だ。

同店は、当会が会員に毎月お届けしている会報誌に掲載されている会員さんの実践事例を、店内で共有し意見を言い合う勉強会を月に1回開いている。
そのなかに、あるパン屋さんの、「あんぱんにごまをつけただけで337%の購入率UP」という事例があった。
他のパンと見分けがつきにくい外見のあんぱんに、試しにごまをつけてみたら、売上が3倍以上に伸びたというものだ。

この事例のインパクトが大きかったので、店長は冗談交じりにスタッフたちに「うちのタントにも、ごまでも付けてみようか」と言ってみた。
ちなみに「うちのタント」とは、中古車として展示しているダイハツの軽自動車。同店はダイハツのディーラーではないが、中古車はメーカー問わず販売している。ところがこのタント、中古車が一番売れる3月~4月を過ぎても売れ残り、ずっと展示し続けている商品だった。

すると、この言葉を聞いた若手スタッフからこんな言葉が返ってきた。
「そう言えば、何人かのお客様に『どうしてここにタントが置いてあるの?』って訊かれました。試乗車と同じ並びに置いているので、あのタントが中古車の商品だと分からないのではないでしょうか。だから、どうしてダイハツの車が並べられているのって意味で質問されているのではないでしょうか?」

店長は一瞬そんな馬鹿な、と思った。
中古車ののぼりも立ててプライスボードも付けているのに、分からないはずがない。
しかしよく考えてみると、ごまの無いあんぱんがあんぱんだと認知してもらえなかったように、お客さんにはわからないのかもしれない。

そして翌朝、試乗車と一緒の列に並べて展示していた中古車タントを、1 台だけ反対向きにして目立つように並べ直してみると、その日の午前中に成約となったのだった。

あんぱんも中古車も、ここでは「売れない理由」はよく似ている。
しかし、人はこういう「売れない理由」にはなかなか気づけない。
また、同店がここに気づいたきっかけは、パン屋の事例を通じた「ごまでも付けてみようか」の言葉だったが、普通、この言葉から今回の解決策は浮かばない。

これは、同店が毎月取り組んでいる事例からの学びの賜物だ。
こういう学びを繰り返していると、人は気づく力や、解決策を思いつく力がつく。
それこそが「売れる」という結果をもたらすのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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